星のつぶやき

                    御庄博実(丸屋博)



川沿いの道を歩く

いま、いまですよ と呼びかけられて

ふりむくと桜並木

もう齢をとりすぎましたとつぶやいている

焦土に植えられて もう60年を超えた

ソメイヨシノ60年の寿命ともいうが

元安川 川岸を飾った樹も

ぼつぼつ植えかえねばならんか



いま、いまですよと呟いたのは君か

かたい蕾のまま風に吹かれている

遠い目をして8月のあの日に

僕は思わず振り返る

戦はとっくに終わっているが

僕は戦の呪縛から逃れられない

いま。いまですよという呟き



60年安保の国会前

道幅いっぱいのフランスデモ

夕焼けに染まった議事堂を

いま、いまですよと 植え込みの中から足元から

耳鳴りが聞こえてくる

声のなかで一人の少女が死んだ

米大統領・アイゼンハワーは訪日の計画を中止

天皇との面接もキャンセルした



いま、いまですよ と呟きながら

アッパス君はバスラの病院で亡くなった

アッパス君の友達も、またその友達も

星になって地下の小さな石になった

親父のブッシュは7日で撤退したが

息子のブッシュはバクダッドに攻め込み

イラク全土に憎しみと劣化ウランをばらまいた

幾万か 幾十万か 数えきれない星たちが地下で呟いている

いま、いまですよ と



広島の川岸をそっと歩いてごらん

優しい心と 哀しい心と 瞋恚に燃え

いま、いまですよという呟きが

道端の小石から 元安川の漣から

耳鳴りになって聞こえます





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